カナダに住んでわかったこと:日本とカナダの紫外線対策の違い

以前のコラム(「スキンケアの投資:どれだけあれば十分?」)でも少し触れましたが、国によって、時代によって紫外線対策には違いがあるように思います。

今回の記事では私の住んでいるカナダで、人々が太陽光とどのように付き合っているのかについてお話しします。また子どもに関してはどのような紫外線対策が見られるのか、についても取り上げていきます。

夫の家族を観察して気付いたこと

1992年の夏、当時まだ生後8ヶ月の長男を連れて夫の実家に遊びに行った時のことです。

裏庭のプールでパパに抱かれて初めての水遊びを経験し、息子はとても喜んでいました。

同じ日に義姉の家族も泳ぎに来ていたのですが、ふと見ると息子とほぼ同じ年のKちゃんが帽子をかぶり、長袖の薄いシャツを水着の上に羽織っています。そしてそのまま義姉に抱かれてプールに入っていきました。

真夏ですから当然、寒いわけがありません。

何故そのような重装備で泳がせているのかと義姉に聞くと、「日焼けを防ぐため」との返事でした。

プールサイドや海辺で肌を覆う人を見たことはあっても、服を着たまま泳いでいる大人も子どももそれまで見たことがなかった私には、かなり衝撃的な光景でした。

確かにKちゃんは、写真を見てもお分かりのとおり、いかにもデリケートそうな色の白さです。義姉が気を付けてあげないといけないのも理解できます。

そこで改めて、アジア人である私と比べて「白人」である夫たちは、同じ強さの日差しに当たっても肌に受けるダメージが大きいのかも知れない、と実感したのでした。

(ちなみに息子は私の遺伝子をも受け継いでいるので、従姉と比べるといささか肌が強そうに見えます。この時もけっこう長い時間、プールで泳いだり、芝生で遊んだりしていましたが、日焼けを心配した記憶はありません。)

そう考えると色々と見えてくることがありました。

夫の両親はそれぞれウクライナ(義父)とイギリス(義母)という、ヨーロッパでも緯度の高い国にルーツを持っています。

そのためでしょうか、家族の多くが髪・目・肌の色素が薄い傾向にあります。

夫は普段、街を歩いている時もわざわざ日陰を求めて道路を渡るほど太陽光が苦手。

かつて一緒にゴルフのトーナメントを観戦に行った時は1時間ちょっとで「帰る」と言い出したので、退屈なのかと思いきや日焼けと暑さのせいで日射病になりかけていたのでした。

(ちなみにその時、一緒に行っていた日本人の友人たちも私も全く平気でした。)

義母や義姉は、夏になるとつばの広い帽子を被ります。

お洒落だから、ということも考えられるでしょうが、自宅の庭でも脱がないのはあまりにも徹底しすぎ?

また、彼女たちが家から一歩でも外に出る時は季節に関わらずサングラスを掛けていることにも気づきました。

 

思い切ってある日、聞いてみると「(太陽が)眩しいと頭痛がするから」との説明を受けました。どうやら肌だけではなく、目の色によっても陽の光から受けるダメージは違うらしい、という新たな発見がありました。

 

なお、同じ家族でも義兄はただ一人、若い頃から日光浴が大好きだったと聞きました。

「あまり日焼けすると皮膚がんになるかも知れないよ」と言われても構わずに、せっせとプールサイドでタオルを敷いて寝ころんでいたそうです。

個人差もある、ということは認めざるを得ません。

カナダの子どもの紫外線対策の変遷

日本では夏になると、学校のグラウンドで子どもたちが真っ黒に日焼けして部活に勤しんでいる姿をよく見かけます。

熱中症については最近、心配の声を聞くようになりましたが、我が子の日焼けを気にする日本人の親はあまりいないような気がします。

しかしカナダではちょっと様子が違います。

ひとことで言うと「子どもの日焼けは奨励されない」のです。我が家でも息子たちが成長するにつれ、徐々にそのことが分かって来ました。

公園でも、学校でも、スポーツの場でも、子どもたちは紫外線を浴びすぎてはいけない、という認識が共有されているように感じました。

後ほど、カナダの小児科学会がホームページに載せている「Sun Safety(太陽光安全対策)」のチェックリストをご紹介しますが、かなり詳しい内容です。

もっとも夫に言わせると、昔はカナダでも親はさほど子どもの日焼けに神経質ではなかったそうです。

例えばKちゃんには完全防備でプール遊びをさせていた義姉の場合。自分が幼い頃は夏になると、いつも暗くなるまで近所の子たちと遊んで、鼻のてっぺんや頬にはソバカスをいっぱい作っていた、と笑っていました。

夫や義妹は陽に当たり過ぎると顔や耳、そして腕に水ぶくれができて火傷の様な症状が出たとも聞きます。

当時(1960年前後)、夫の一家は義父の仕事の関係でオンタリオ州の北端の町(北海道の稚内よりも北方)に住んでいました。

冬の間は日照時間がとても短く、夏はなるべく太陽光を浴びることが子どもの健康に良い、と考えられていたのです。

その証拠にこの写真を見ると、晴天の下、湖畔で母親と過ごしている夫も義妹も帽子を被らず、日焼け止めを塗っている様な気配がありません。

お義母さんは優雅にサングラスとスカーフを着用していますが

「だって、サンスクリーンなんていう代物が一般的になったのはせいぜい1980年代だもの」と言う夫。

ここでちょっと歴史の話をしますと、ヨーロッパや北米では1930年以前まで、日焼けしていない白い肌が(屋外で農業などの肉体労働に従事していない)上流階級の証であるように思われていました。

ところが1930年から徐々に、日焼けした肌が今度は「優雅にバカンスを楽しんで来た」ことのステータス・シンボルであると考えられるようになりました。

そのため人々は専用のオイルを塗って陽に当たり、小麦色になるまで焼こうとしたのです。 夫や私はこの日焼けブームの真っ只中で育ったわけですが、その後、1980年頃になって人々が再び太陽光を避けるようになったきっかけは、どういったものだったのでしょうか。

「UV Index」の登場

この記事を読んでくださっている方々は、毎日「お天気情報」をチェックされていると思います。その中で特にどのような項目が思い浮かびますか? 一日の最高・最低気温、そして降水確率、が最も一般的。季節によっては台風情報や花粉情報なども気になるかも知れません。 カナダでも気温や降水(特に降雪)は重要な関心ごとですが、それらと並んで「UV Index(紫外線指数)」というものが頻繁に取り上げられます。 この指数の歴史を探ってみると、何とカナダの気象・環境学の科学者によって1992年に初めて実用化され、その二年後に世界保健機関(World Health Organization)などによって採用されるようになったのだそうです。 半世紀以上の「日焼けブーム」を経て、太陽の紫外線を浴び続けることが危険である、とようやく認識され始めました。イギリスなどヨーロッパ諸国で1970年代以降、皮膚がん患者が急に増加して医療関係者を慌てさせることになったのです。本来、肌の色が薄い人の方が紫外線によるダメージを受けやすいのに、無理をして日焼けに勤しんだのが裏目に出た、というわけです。 そこで人々の注意を促すために分かりやすい紫外線指数が考案されて、それを参考に対策が立てられるようになりました。ちょうど我が家の息子たちが生まれた頃です。

カナダ政府のHPに掲載されている「UV Index」のポスター

なお、日本で紫外線対策に熱心なのは主に女性である、というのが私の印象ですがいかがでしょうか。シミ・ソバカスを作らないようにするため、あるいは肌の乾燥を避けてアンチエイジングを心がけているから、という美容面が焦点となっているように思えます。 しかしカナダでは女性も男性も医学的な理由に基づいて肌を守る、そして大人は子どもの将来のために紫外線対策を取る、というイメージがあります。

カナダ小児科学会からのアドバイス

最後にCanadian Paediatrics Society(カナダ小児科学会)のホームページに掲載されている子ども用の日焼け対策のアドバイスをご紹介しましょう。 「一日で一番、日差しの強い時間帯(午前10時から午後2時)はなるべく避ける」、「帽子・衣類で肌を守る」、あるいは「日陰を確保する・日傘を持参する」などの項目は日本小児皮膚科学会のホームページにも載っていますが、興味深い違いもあります。 サンスクリーンの塗り方が年齢によって区別されていたり: ・赤ちゃんにはSPF30のサンスクリーンを少量使用(生後6ヵ月以下の場合は手でこすって目や口に入りかねないので使用を勧めない) ・1歳以上の子どもに関しては外に出る少なくとも30分前に、SPF30以上のサンスクリーンを使用 サンスクリーンの塗り方が詳しく説明されていたり: ・陽の当たる全ての部分に塗る ・耳、鼻、首と脚の後ろ、足の甲なども忘れずに! ・2~3時間ごとに、または泳いだり汗をかいたりした後も塗り直す そしてここが最も「カナダらしい」のですが、目や唇の保護についても書かれています: ・UVカット100%のサングラスをかける ・SPF15のリップバームを塗る 確かにこちらでは赤ちゃんや子どもがサングラスをかけているのをよく見かけます。オシャレのため、というよりも実用的な目的だというのがポイントです。日本ではなかなかない発想ですよね? とにかく紫外線は身体に害を及ぼしかねないので、保護者は子どもを守るためにしっかりと対策を取るべきだ、といったカナダ政府のメッセージが伝わって来ます。 そんなこともあってか、最近の親はちょっと過剰なほど子どもが太陽光に当たるのを避けようとする、と義姉などは言います。「それで今度はビタミンD不足になって、錠剤で補う羽目になるんだから、本末転倒でしょ?」と自分の孫たちのことが心配になるようでした。 まあ、何ごともほどほどに、ということでしょうか。

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社会学博士。日本とカナダの大学で教え、トロント大学マンク国際研究所のエスニシティ研究課程事務局長を2020年まで務める。現在はフリーのライター・通訳・翻訳家として国際映画祭、スポーツイベント等、幅広く活躍。 父親の駐在により3才でイギリスに渡航、4才から15才までフランスで育つ。約40年に及ぶ欧米生活経験で培った広い視野をもち、日本語、英語、仏語を自由に操る。現在はカナダ人の夫とトロント市郊外在住。