オートミールとスキンケア

今回の記事のお題は「オートミールとスキンケア」です。

日本でもちょっと前からオートミールへの関心が高まっている様ですが、もっぱら食用、ではないでしょうか。

北米では古くからオートミールが肌に良い、という認識が持たれています。私がそれを初めて知ったのは、長男が二歳頃で水疱瘡に罹った時でした。

義理の母に相談すると、「薬局に行ってオートミールの入浴剤を買って来なさい。それで肌の痒みがおさまるから」と言われました。

初めて耳にする「オートミールの入浴剤」がどんなものなのか、全く想像がつきませんでしたが、早速、言われた通りに最寄りのドラッグストアに行ってみるとすぐに見つかりました。「子どもが水疱瘡なの?」とレジで聞かれたくらいなので、カナダ人の間では馴染みの深いホーム・レメディ(家庭療法)なのだと実感しました。

後ほどまたスキンケアに話を戻しますが、いったん目線を変えて、カナダにおけるオートミールの位置付けについて、私の夫側の親族の談話も交えて書いていくことにします。

朝の食卓の常連:オートミール・ポリッジ

我が家のオートミール・ポリッジはフルーツが一杯。

バナナ、洋ナシ、フローズン・ブルベリーを乗せて、メープルシロップとシナモンで仕上げました。

 

私のカナダ人の夫は、母親側の家系が英国にルーツを持っていることもあって、子供の頃の朝食のメニューは比較的、豊かだったという記憶を持っているようです。

「比較的」というのは、カナダの子どもの朝食が往々にして「シリアルとミルクをボウルにザーッと入れてかき込む」だったり、「トーストを一枚とコーヒーで済ませる」だったり、非常に合理的でシンプル、という印象だからです。

一方、「イングリッシュ・ブレックファースト」と言えばそれよりももう少し品数が多く、卵や肉類の温かいアイテムが出て来るイメージがありますよね?

夫の場合は平日でも半熟卵に細長くカットしたバター・トーストのスティックが出て、週末になるとベーコン・エッグやキッパース(ニシンの干物)、そしてオートミールなどが並んだそうです。

オートミールはお母さんがポリッジ(お粥)に仕立て、上にハチミツ、レーズン、シナモン、そして生クリームが掛かっていたと言います。

今でこそ、電子レンジで即席にポリッジ状にできるオートミールが出回っていますが、半世紀前(!)は「Steel Cut Oats」という形状で、もっとオーツ麦の原形に近い状態で売られていることが多かったのです。

それをゆっくりと30分以上かけて、焦げないようにかき混ぜながら煮るので、けっこう手間がかかります。5人の子供にまんべんなく行きわたるよう、大量のポリッジを作ろうと思うと大変な作業になります。それだけにお母さんの愛情を感じ取れるアイテムだったのかも知れません。

夫の姉は我が家のすぐ近くに住んでいるので、毎朝一緒に犬の散歩をするのが日課となっています。そこで先日、彼女にもオートミールの思い出を聞いてみました。

「私はハチミツではなくて、メープルシロップをかける方が好きだったかしら」と言い、やはり暖かい、お腹を満たすポリッジには格別な思い入れがあるようでした。

義姉自身、子どもが5人いるので「自分もポリッジをよく作って食べさせた」と、語ってくれました。ただ、時間を短縮させるために「Rolled Oats」(オーツ麦を蒸して潰したもの)を使ったそうです。そしてオートミールのクッキーもよく作った、と。

歯ごたえがあって満足感が得られる。脂肪分が含まれていてお腹持ちが良い。オートミールは忙しいお母さんの強い味方なのです。

スーパーマーケットでの売り場の様子

さて、いつもは特段気にかけないのですが、この記事を書くために改めてスーパーの売り場でオートミールがどのように陳列されているのかを見てきました。

ご覧の様にシリアル売り場は日本よりもずっと品ぞろえが豊富ですが、中でもオートミール類の占める範囲がかなり大きいです。

ナッツやドライフルーツの混ざったミューズリであったり、フレーク状のシリアルであったり、はたまたポリッジの素材であったり。大手メーカーのものが幅を利かせていますが、ハウス・ブランドやオーガニック・ブランドのものも多数ありました。

ポリッジ用のものもすでにご紹介した「Steel Cut Oats」と「Rolled Oats」の形状のほか、おそらく忙しい家庭の食卓で一番、良く食べられている「Instant Oats」もありました。一食分ずつ小分けになっていて、あらかじめバナナ味やメープルシロップ味などの甘い味付けがしてあって、ほんの1分半、ミルクと一緒に電子レンジに入れれば出来上がるのが魅力です。

なお調べてみると、オートミールは作りやすさを優先して加工されたものでも栄養価は落ちないとのことなので、育ち盛りの子供の朝食やおやつに重宝されるわけですね。もちろん、大人も好んで食べますし、健康に気を付けている人には大人気です。

ただ、「コレステロール値を抑えられるから」、あるいは「繊維質が多く含まれていてダイエットにも良いから」といった面が取り沙汰されるようになったのはごく最近のことであって、もともとは安価で手軽な食材であるところが魅力だったのではないかと思います。

ラテン系よりアングロサクソン系の民族に親しまれた食材

ふと自分の幼少期を振り返ってみると、初めてオートミールらしきものを食べたのは小学校の二年生くらいの時ではなかったかと思います。

以前の記事でお話ししたと思いますが、私は子ども時代をフランスで過ごしているので、その頃の話になります。同じアパートに住んでいたお友達の家に泊りに行って、朝、その子のお母さんが白っぽいペースト状の食べ物を深いお皿に入れて出してくれたのです。

見たことのない不思議な食べ物でしたが、温かいオレンジジュース(だったと思います)が周りに掛かっていて、とても美味しかったのを憶えています。

その後、フランスではついぞそのような朝ごはんのアイテムに遭遇しなかったのですが、今になって思えばあれはオートミールだったのだという結論に達しました。そしてその子のお母さんがドイツ人であった、という事も思い出して、さらに合点が行きました。

というのもどうやらオートミールはもともとアングロサクソン系やスラブ系の民族に親しまれた食べ物であり、ラテン系の食文化にはあまりフィーチャーされていないからです。フランスで「AVOINE」と呼ばれるオーツ麦は「馬の餌」というイメージが強く、どのような形でもあまり食卓に登場するのを見たことがありません。

テオドール・ジェリコー作「馬に燕麦をやる少年」(19世紀初頭の作品)

Théodore Géricault - Garçon donnant l'avoine à un cheval dételé

もっとも大英帝国などでも皆が皆、オートミールのポリッジを昔から食べていたわけではなさそうです。北に位置するスコットランドやアイルランドでオート麦が主食や保存食として活躍していたのに比べ、イギリスではフランスと同じく馬の餌として位置づけられていたという史料を目にしました。いずれにしても庶民の食べ物、であったように思われます。

その後、義母の先祖の様に大西洋を渡ってアメリカやカナダに移民として辿り着いた人たちによって、オートミールが新世界の食文化に根付き、今日に至っているのだな、と今回の記事のために調べていて確認した次第です。

 

そしてスキンケア

ようやく冒頭で触れたオートミールのスキンケア用途に話を戻します。

子どもの水疱瘡やアトピー皮膚炎で悩むカナダの親は、とりあえずオートミールの入浴剤を試すように促されます。オートミールには炎症を抑え、肌の潤いを保つ特徴が備わっていて、しかも手軽に薬局で求めることができるからです。

かくいう私も息子のために使ってみて、その効果を確かめた一人です。薄いフレーク状に加工されたオートミールをお風呂のお湯に溶かしてゆっくりと浸かると、魔法のようにとは言わないまでも、かなり肌の痒みが治まるようでした。(水を流す時は詰まらないかしら、とちょっと心配になりましたが)

厳密に言えば薬品ではないので何度使っても安心だし、匂いがしないので子供も嫌がりません。

あれから25年以上も経っていますが、薬局に行ってみると私が使ったものと同じ「A社」というメーカーの子ども用入浴剤が売り場に並んでいました。

でも昔よりも赤ちゃん・子ども用のスキンケア製品のラインナップがすごく増えていてびっくり。隣にはA社の大人用のボディローションやシャワージェル、そして様々なハンドクリームなどもたくさん並んでいます。

そう言えばここ数年、アメリカの有名女優がこのメーカーの手掛けたオートミール化粧品のコマーシャルに出て話題になったのでした。1990年代に一世を風靡したラブコメディ・シリーズに出ていた彼女の人気のおかげで、「A社=子どもの皮膚炎用入浴剤を作る会社」から一気にブレイクした感があります。今ではピーリングやアンチエイジングなど、どんどん普通の化粧品会社と同じようなアイテムも売り出しているのです。

それにしてもこの女優をイメージ・キャラクターに選んだのは名案だったな、ということがこの記事を書いていてよく分かりました。「健康的・気取らない・暖かい笑顔」が魅力の彼女は、オートミールが多くの北米人に思い起こさせる「暖かい家庭の味」や「優しい女性(=お母さん)」のイメージと上手く合致しているのです。

ところでA社に限らずスキンケア業界でもオートミールを取り入れているメーカーがこんなにあるのか、と今回、調べてみて驚きました。

しかしよく考えてみれば、赤ちゃんの肌さえも任せて安心な原料であれば、大人の敏感肌・乾燥肌に悪いはずがありません。多くの人が(少なくとも北米では)、子どもの頃からオートミールを使ったスキンケアを文字通り「体験」しているわけですから、その安全性を前面に押し出した商品が売れるのは当然ではないでしょうか。

昔から身近にあり、あまり気取らず、しかし頼りがいのあるオートミールは、食べて良し、肌につけて良し、の万能作物。 今後ますますの活躍が期待される気がして来ました。

ライタープロフィール

嘉納もも・ポドルスキー Momo Kano Podolsky 社会学博士。日本とカナダの大学で教え、トロント大学マンク国際研究所のエスニシティ研究課程事務局長を2020年まで務める。現在はフリーのライター・通訳・翻訳家として国際映画祭、スポーツイベント等、幅広く活躍。 父親の駐在により3才でイギリスに渡航、4才から15才までフランスで育つ。約40年に及ぶ欧米生活経験で培った広い視野をもち、日本語、英語、仏語を自由に操る。現在はカナダ人の夫とトロント市郊外在住。
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